診療科案内
呼吸器内科
診療内容
気管支鏡による検査・治療
気管支鏡検査は、細い内視鏡を口や鼻から気管・気管支の中に挿入し、肺や気管支の病気を詳しく調べる検査です。気管支の内部を直接観察するとともに、肺の組織や細胞、分泌物などを採取し、肺がん、感染症、間質性肺疾患などの診断を行います。
近年、肺がんでは、がん細胞が持つ遺伝子異常やタンパク質の特徴に応じて治療薬を選択する「個別化医療」が急速に進歩しており、より確実に十分な量の組織を採取することが重要になっています。当科では、超音波気管支鏡(EBUS)、細径気管支鏡、バーチャル気管支鏡などを症例に応じて活用し、患者さんの負担をできるだけ少なくしながら、正確な診断が得られるよう努めています。
また、診断だけでなく、難治性気胸に対するEWS(シリコン製充填材)を用いた気管支充填術や、クライオプローブなどを用いた気道内腫瘍の治療など、気管支鏡を用いた治療(気管支鏡インターベンション)にも取り組んでいます。
肺がん
肺がんは、肺や気管支の細胞から発生する悪性腫瘍です。主に「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」に分けられ、さらに組織型や病気の広がり(病期)によって治療方法が異なります。
肺がんの治療は近年大きく進歩しており、手術、放射線治療、薬物療法を患者さんの状態に応じて組み合わせて行います。早期の肺がんでは手術や放射線治療による根治を目指し、進行した肺がんでは抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを用いた薬物療法が中心となります。また、手術が可能な肺がんに対しても、手術の前後に薬物療法や免疫療法を組み合わせることで再発を減らす治療が行われるようになっています。
特に非小細胞肺がんでは、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2など、治療薬の選択につながるさまざまな遺伝子異常を調べることが重要です。このため、一度に多くの遺伝子を調べる遺伝子パネル検査(包括的がんゲノムプロファイリングを含む)を行い、その結果に基づいて一人ひとりに適した治療を検討します。また、PD-L1などの検査結果も免疫療法を選択する際の参考にします。
当科では、呼吸器外科、放射線科、病理診断科などと連携し、それぞれの患者さんに適した治療方針を検討しています。また、西日本がん研究機構(WJOG)、九州肺癌機構(LOGIK)などの臨床研究グループに参加し、新しい肺がん治療の確立を目指した臨床試験にも取り組んでいます。
気管支喘息
気管支喘息は、気管支に慢性的な炎症が起こり、さまざまな刺激に対して気道が敏感になる病気です。発作的な息苦しさ、ゼイゼイ・ヒューヒューという呼吸音、咳、胸の苦しさなどが特徴ですが、咳だけが続く場合もあります。
診断には症状や経過に加えて、呼吸機能検査、気管支拡張薬に対する反応、呼気一酸化窒素(FeNO)検査、血液検査などを組み合わせます。必要に応じてダニ、ハウスダスト、ペット、花粉、カビなどに対するアレルギー検査も行います。
治療の基本は吸入ステロイド薬を中心とした吸入療法です。症状や重症度に応じて気管支拡張薬などを組み合わせ、症状や発作がなく、健康な方と変わらない日常生活を送ることを目標とします。
通常の吸入治療を適切に行っても十分な効果が得られない重症喘息では、喘息の原因となる炎症のタイプを詳しく調べたうえで、IgE、IL-5、IL-5受容体、IL-4/IL-13、TSLPなどを標的とした生物学的製剤を使用することがあります。これらの治療によって、従来はコントロールが困難であった重症喘息でも、発作やステロイド使用を大幅に減らせる患者さんが増えています。
当館では重症喘息の患者さんに対し、適切かつ積極的に抗体製剤の導入を行っています。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に長期間の喫煙や大気汚染物質などの有害な物質を長期間吸入することによって気管支や肺に慢性的な炎症が起こり、空気の通り道が狭くなったり、肺胞が壊れたりする病気です。以前「肺気腫」や「慢性気管支炎」と呼ばれていた病気の多くがCOPDに含まれます。
代表的な症状は、階段や坂道を歩いたときの息切れ、慢性的な咳や痰です。ゆっくり進行するため、「年齢のせい」と考えて受診が遅れることも少なくありません。診断には呼吸機能検査が重要で、胸部CTなどを組み合わせて肺気腫の程度を評価します。
治療で最も重要なのは禁煙です。禁煙を行うことで、病状の進行速度を抑えることができると言われています。薬物療法では、長時間作用性の気管支拡張薬を中心とした吸入治療を行い、患者さんによっては吸入ステロイド薬を組み合わせます。適切な吸入治療によって息切れなどの症状を改善するとともに、病状が急激に悪化する「増悪」を減らすことが重要です。さらに血中の好酸球数が上昇しているCOPD患者さんでは喘息同様に抗体製剤の使用が可能となりました。
また、活動量低下は全身の筋力低下・呼吸機能低下をきたすため、薬物療法だけでなく、運動療法を中心とした呼吸リハビリテーション、適切な栄養管理も必要です。さらにインフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルス、RSウイルスなどの感染症に対するワクチン接種も重要です。
COPDは肺だけの病気ではなく、心血管疾患、骨粗しょう症、筋力低下、低栄養などを伴うことがあります。当科ではこれらも含めて総合的に評価し、患者さんができるだけ活動的な生活を維持できることを目標に治療を行っています。
在宅酸素療法(HOT)
慢性の肺疾患などによって血液中の酸素が不足する状態が続く場合には、在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)を行うことがあります。自宅や外出時に酸素を吸入することによって、体に必要な酸素を補う治療です。
特に、安静時にも高度の低酸素血症が持続する慢性呼吸不全では、在宅酸素療法によって生命予後の改善が期待できます。また患者さんによっては、息切れを軽減し、日常生活や運動を行いやすくすることにもつながります。
当院で導入する場合は1週間程度入院し、理学療法士・作業療法士による評価・指導のもとで、安静時、歩行時、睡眠時などの酸素状態を評価し、それぞれの患者さんに適した酸素流量を決定します。酸素療法だけでなく、呼吸リハビリテーションや栄養管理などを組み合わせることも重要です。
酸素には燃焼を助ける性質があるため、酸素使用中の喫煙は重大な火災ややけどにつながります。在宅酸素療法を安全に継続するためにも禁煙が必要です。
間質性肺疾患
肺の奥には「肺胞」という小さな袋状の構造があり、ここで血液中に酸素を取り込んでいます。肺胞の壁を中心とした組織に炎症や線維化が起こり、肺が硬くなって酸素を取り込みにくくなる病気を総称して「間質性肺疾患」と呼びます。
代表的な症状は、痰を伴わない咳(乾性咳嗽)や、歩行・階段などでの息切れです。一方、初期には症状がなく、健康診断や他の病気の検査で行った胸部CTから発見されることもあります。
間質性肺疾患にはさまざまな原因があり、膠原病などの自己免疫疾患、薬剤、鳥やカビなどの吸入、職業・環境によるものなどがあります。詳しく調べても原因が特定できないものを「特発性間質性肺炎」と呼び、その中で代表的な病気が「特発性肺線維症(IPF)」です。
診断には詳細な問診に加え、胸部高分解能CT(HRCT)、血液検査、呼吸機能検査、歩行時の酸素状態などを評価します。必要に応じて気管支肺胞洗浄、気管支鏡を用いた肺生検(クライオバイオプシーを含む)、外科的肺生検などを行います。診断が難しい場合には、呼吸器内科医、放射線科医、病理医などがそれぞれの所見を検討し、総合的に診断します。
治療は病気の種類によって大きく異なります。特発性肺線維症では、肺の線維化の進行を抑える抗線維化薬を使用します。一方、炎症や免疫異常が病態の中心となる間質性肺疾患では、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などを使用します。また、一部の間質性肺疾患では、原因にかかわらず肺の線維化が進行する「進行性肺線維症(PPF)」という状態になることがあり、病態に応じて抗線維化治療を検討します。
薬物療法だけでなく、禁煙、ワクチン接種、呼吸リハビリテーション、必要に応じた酸素療法などを組み合わせ、病気の進行を抑えながら生活の質を維持することが重要です。
過敏性肺炎
過敏性肺炎は、細菌やウイルスによる肺炎とは異なり、生活環境や職場環境に存在する特定の物質(抗原)を繰り返し吸い込むことによって、肺にアレルギー性・免疫性の炎症が起こる病気です。
原因として、鳥の羽毛や排泄物に由来するタンパク質、カビ、細菌、きのこの胞子などさまざまな物質が知られています。自宅だけでなく、職場、趣味、加湿器、浴室、羽毛製品など、思いがけない環境が原因となっていることもあります。
症状は咳、息切れ、発熱などですが、長期間にわたり少しずつ進行する場合には、発熱などを伴わず、咳や労作時の息切れだけがみられることもあります。慢性的な炎症が続くと肺が硬くなる「線維化」をきたし、原因となる抗原を避けても病気が進行することがあります。
診断では、生活環境、住居、職業、趣味、鳥との接触などについて詳しくお尋ねすることが非常に重要です。胸部CT、血液中の抗体検査、呼吸機能検査などを行い、必要に応じて気管支肺胞洗浄や肺生検などを組み合わせて診断します。
治療で最も重要なのは、原因となる抗原を見つけ、その吸入をできる限り避けることです。病状によっては副腎皮質ステロイドなどの治療を行います。また、線維化が進行する場合には、その病態に応じて抗線維化治療を検討することがあります。
サルコイドーシス
サルコイドーシスは、「肉芽腫」と呼ばれる小さな炎症性の組織が全身のさまざまな臓器にできる病気です。原因は完全には解明されていません。
好発部位は肺やリンパ節ですが、眼、皮膚、心臓などにも病変が生じることがあり、神経、筋肉、肝臓、腎臓などが障害されることもあります。
肺病変では咳や息切れ、眼病変では目のかすみ、まぶしさ、飛蚊症など、皮膚病変では皮疹などがみられます。一方、自覚症状がなく健康診断の胸部X線検査などで偶然発見されることもあります。
診断には胸部X線やCT、血液検査、呼吸機能検査などを行い、必要に応じて気管支鏡などで組織を採取して特徴的な肉芽腫を確認します。また、症状がなくても心臓や眼などに病変が隠れていることがあるため、必要に応じて心電図、心臓超音波、眼科検査、MRI、FDG-PETなどを組み合わせて全身を評価します。
自然に改善し治療を必要としない患者さんも多いため、すべての患者さんに薬物療法を行うわけではありません。一方、肺機能が低下する場合や、心臓、神経、眼など重要な臓器に障害をきたす場合には、副腎皮質ステロイドを中心とした治療を行い、必要に応じて免疫抑制薬などを使用します。
肺非結核性抗酸菌症
非結核性抗酸菌(NTM)は、結核菌とらい菌以外の抗酸菌の総称で、水や土壌など自然環境に広く存在しています。この菌が肺に感染して起こる病気を「肺非結核性抗酸菌症」といいます。
日本ではMAC(Mycobacterium avium complex)による肺MAC症が最も多く、特に中高年の女性で増加しています。そのほか、Mycobacterium abscessusなどさまざまな菌によって発症します。結核とは異なり、通常の肺MAC症では人から人へ感染することはないと考えられています。
症状は慢性的な咳や痰、血痰、微熱、体重減少などですが、症状がほとんどなく、健康診断などで発見されることもあります。診断には胸部X線・CTに加え、痰の培養検査を複数回行い、菌の種類を正確に同定することが重要です。痰が出ない場合には気管支鏡検査を行うこともあります。
肺非結核性抗酸菌症は、診断されたすべての患者さんがすぐに治療を開始するわけではありません。症状、画像所見、菌の種類、病気の進行速度などを総合的に判断し、治療開始時期を決定します。
肺MAC症では通常、マクロライド系抗菌薬、エタンブトール、リファマイシン系薬など複数の薬剤を組み合わせて長期間治療します。病状によってはアミカシンなどを追加することもあります。治療中は視力・聴力・肝機能などの副作用にも注意しながら、定期的に痰の培養検査や画像検査を行います。
自然気胸・胸水貯留
自然気胸は、肺の一部から空気が漏れ、肺と胸壁の間にある「胸腔」に空気がたまることで肺がしぼんでしまう病気です。若く痩せた男性にみられる原発性自然気胸のほか、COPDや間質性肺疾患などの肺疾患に伴って発症する続発性自然気胸があります。
軽症では安静や経過観察で改善することがありますが、肺の虚脱が大きい場合や呼吸困難が強い場合には、胸に細い管(胸腔ドレーン)を挿入して空気を排出します。空気漏れが長く続く場合や再発を繰り返す場合には、手術や気管支鏡を用いた治療などを検討します。
胸水は、肺と胸壁の間に液体が異常にたまった状態です。肺炎などの感染症、悪性腫瘍、心不全をはじめさまざまな原因によって起こるため、原因を明らかにすることが重要です。
胸水が多く呼吸困難をきたしている場合には、針や胸腔ドレーンを用いて排液します。また、原因を調べるため胸水検査や胸膜生検、必要に応じて局所麻酔下胸腔鏡検査などを行います。
悪性胸膜中皮腫
悪性胸膜中皮腫は、肺の表面を覆う「胸膜」から発生する悪性腫瘍です。発症には石綿(アスベスト)への曝露が強く関係しており、曝露から数十年を経て発症することがあります。職業上の曝露だけでなく、過去の生活環境などによる曝露が関係する場合もあります。
胸水がたまることによる息切れや胸痛などをきっかけに発見されることが多く、胸部CTなどの画像検査に加えて、胸水検査や胸膜の組織検査によって診断します。
治療法は病気の広がり、組織型、年齢、全身状態などを総合的に評価して決定します。手術、薬物療法、放射線治療、症状を和らげる治療などを組み合わせます。
薬物療法は近年大きく進歩しており、従来のプラチナ製剤とペメトレキセドによる抗がん薬治療に加え、ニボルマブとイピリムマブを組み合わせた免疫療法などが標準治療として用いられています。さらに、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん薬を組み合わせた治療も選択可能となっており、患者さんの状態や病気の特徴に応じて治療法を検討します。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」はコロナウイルスのひとつです。コロナウイルスには、一般の風邪の原因となるウイルスや、「重症急性呼吸器症候群(SARS)」や2012年以降発生している「中東呼吸器症候群(MERS)」ウイルスが含まれます。COVID-19は2019年末から発生したのを皮切りに急速に全世界へと拡大しました。多くは風邪症状(発熱、せき、鼻水、咽頭痛など)のみで軽症ですが、高齢の方を初め基礎疾患(心疾患、呼吸器疾患、糖尿病、腎臓病、免疫不全など)を有する一部の方では重症化する可能性が高い病気です。COVID-19に対する薬物治療は、①抗ウイルス薬、②免疫調整薬・免疫抑制薬、③抗凝固薬、④その他に大別されます。現在日本ではCOVID-19 に適応を有する薬剤は限られていますが、新たな治療法やワクチンの開発に向けて、日進月歩でCOVID-19に関する知見が集積しています。
